製造業を中心に、新しい概念として「MBSE(モデルベースシステムズエンジニアリング)」が注目されています。
今回の記事では、MBSEの概要やMBDとの違い、MBSEを導入するメリットやスムーズな導入方法を解説します。
MBSEの導入事例も解説していますので、自社のMBSE導入の推進にぜひ役立ててください。
また、MBSE適用のためのソリューションを提供しているテクノプロ・デザイン社には、モデルを用いた手法を適用し、効果的・効率的な開発の支援を行った実績が多くあります。ぜひ一度お問合せ・ご相談ください。
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MBSEの概要とMBDとの違い
ここではMBSEの概要や、従来のドキュメントベースでのシステムエンジニアリングとの違い、また似ている言葉であるMBDとの違いを解説します。
MBSEとは
MBSE(Model Based Systems Engineering・モデルベースシステムズエンジニアリング)とは、多くの種類のモデルを使ってシステムズエンジニアリングを行い、プロジェクト全体の業務効率化や管理の最適化を行う手法および概念です。
システムズエンジニアリングとは、広義でのシステム実現を目的に実施される、複数の専門分野をまたいだアプローチと手法を指します。一般的に「システム」と言えば、ITシステムや情報システムを連想しますが、システムズエンジニアリングの対象となるのは、広義でのシステムです。システムズエンジニアリングにおけるシステムとは、開発対象となる製品やサービスを含め、要件定義や設計開発、人材および品質マネジメント、計画策定、さらに製造、販売、営業、品質管理といった工程や業務、組織も含むプロジェクト全体を指します。
システムズエンジニアリングでは、その対象は製品設計前から市場投入後までの製品ライフサイクル全般に至るため、開発や設計といった技術部門での業務だけでなく、分野や部門を超えたコミュニケーションが求められます。システムズエンジニアリングにおいて、モデルをベースとして用いる概念が、MBSEです。
MBSEで用いる「モデル」とは、設計、分析結果、判断基準といったものから、担当者、日程、コストなどの「情報の構造体」を指します。MBSEでは、製品ライフサイクルで発生する開発や設計、検証、分析、人と組織のコミュニケーションなどにモデルを活用することで、業務効率化や管理の最適化へつなげます。
モデルベースとドキュメントベースの違い
MBSEで用いられる「モデル」に具体的な定義はありませんが、一般的には抽象的な概念をさまざまな角度から図(ダイヤグラム)として表現したものをモデルとしています。モデルは、おもにシステムモデリング言語であるSysMLを使ってモデリングを行うのが特徴です。
モデル同士はお互いの情報が紐づけされているため、工程や業務、コミュニケーションなどの全体像を把握しやすいメリットがあります。また、モデルはシステムに通じる関係者すべてがアクセスし、共有できるため情報の修正やアップデートもしやすいのもメリットです。
従来のシステムズエンジニアリングにて、モデルの代わりに用いられてきたのが「ドキュメント」です。ドキュメントとは、要求項目や設計といった情報を記録し、システムに関わる他の人への情報伝達を目的として作成されてきた文書を指します。
ドキュメントは文書として記述されているため、以下のようなデメリットがありました。
・記述者や読み手によって情報の解釈が異なる場合がある
・他部署間で情報を共有しにくい
・設計変更や修正、アップデートの必要がある場合、ドキュメント内の該当ページすべてを書き換える手間がかかる
・変更や修正に伴う変更漏れやミスが発生する可能性がある
システムズエンジニアリングのベースをドキュメントからモデルに置き換えることで、ドキュメントの持つ問題点や課題を解決できます。そのため、新しいシステムズエンジニアリングの手法としてMBSEが注目されています。
MBSEとMBDの違い
MBSEと混同されやすいものとしてMBDがあります。MBD(Model Based Systems Development)は「モデルベース開発」と呼ばれ、シミュレーションを活用して開発を進めます。製造業において効率的に高品質の製品開発を実現する手法です。
MBD(モデルベース開発)についてはこちらをご覧ください。
MBSEが広義でのシステム全体の効率化や最適化を目的とした概念であるのに対して、MBDはシステム内の開発、設計、検証の特定分野の工程にモデルを用いる手法を指します。つまりMBDはMBSEの一部であると考えて良いでしょう。
MBSEについては以下の動画も参考になります。
また、MBSEのツールについては以下の記事を参考にしてください。
MBSEが重視されるようになった背景
日本では自動車メーカーを筆頭にMBDを導入している企業は増加傾向にあります。その一方でMBDよりもより広義なモデルを活用したシステム開発や管理における手法として、MBSEが注目されるようになりました。
従来のドキュメントベースでのシステムズエンジニアリングに代わり、MBSEが重視されるようになった背景を解説します。
システムの複雑化への対応
近年のIT技術の進歩や市場ニーズの変化を受けて、製造業を中心に製品は実機ではなくソフトウェア、電子部品が増加傾向にあります。また、AIやIoTをはじめとしたデジタル技術を搭載した製品も増加しました。その結果、新製品の開発時や従来製品の改良時、従来の機械分野だけでなく、電気、システム、ソフトウェアといった他分野の技術を組み合わせての設計や開発、検証が求められるようになります。
システム開発や検証のために部門や分野を超えた技術の提供ややり取りが発生することから、システムが複雑化(System of Systems)するケースも多くなりました。複雑化したシステム下では、従来のドキュメントベースでのシステムズエンジニアリングでは、他分野での連携や情報共有が難しく、全体像が把握しにくい課題が発生します。
また、他分野の技術を組み合わせる分、開発や設計のスピードが落ちてしまうものの、利益や市場ニーズの充足のためには従来通りの開発スピードや品質は担保したい企業がほとんどです。
それらを解決する方法として、品質や開発スピードは担保しつつ、システムの複雑化に対応できるMBSEが求められるようになりました。
大量の情報管理と変更、分析への対応
複雑化したシステムは、その分だけ蓄積、管理する情報量も膨大になります。従来のドキュメントベースでのシステムズエンジニアリングでは、大量の情報の全容をドキュメントから把握するのは困難です。さらに、開発や分析での変更や修正が生じた場合には、大量のドキュメントから該当箇所を検索、書き換えが必要になります。
ドキュメントベースからモデルベースに置き換えることで、大量の情報の適切な管理だけでなく変更や修正への対応も容易になります。
コミュニケーションの円滑化
複雑化したシステムの中でも、製品の開発、設計、製造や販売、調達といった工程はスムーズに行われなければいけません。システムが複雑化した分、開発、設計、販売や営業といった製品ライフサイクル上ではより多くの人と関わる機会が発生します。ドキュメントベースでのシステムズエンジニアリングでは、コミュニケーションが発生するたびに文書を作成する必要があり、業務的な負担やコストは膨大になります。
ドキュメントベースをモデルベースに置き換えれば、他部署間でもモデルを共有し、モデルから紐づいた情報も共有可能です。
複雑化したシステムでコミュニケーションを円滑化するには、モデルベースが必須と言えるでしょう。
MBSE導入のメリット
MBSEは、複雑化したシステムズエンジニアリングに適切に対応するために必須であるのに加え、業務上でも多くのメリットが得られます。
ここではMBSEを導入することで得られるメリットを解説します。
関係者間の連携とやり取りの円滑化
MBSEを導入することで、モデルベースによるコミュニケーションが実現します。すべての関係者が同じモデルを操作し情報を共有できるため、他部門間での連携や相互理解にもつながるでしょう。
モデルは直感的な図によって表示されるため、システム間での理解の齟齬も起きにくいのもメリットです。システム内での部署や他部門間での協調性の向上も期待できます。
業務の効率化
モデルベースのシステムでは、設計や開発、分析の評価や修正、変更もすぐに反映できます。問題の早期発見や特定が期待でき、設計変更や修正も早期のうちに可能です。
モデルベースによるやりとりや修正が効率化することで、業務効率化につながります。また、全体像も把握しやすく、すぐに欲しい情報にアクセスできるのもメリットと言えるでしょう。
コストの削減
早期に問題発見や問題を特定することができるため、設計変更や修正を早期にできます。
これにより、後工程での設計変更に伴うやり直しなどを防ぐことができるため、コスト削減を実現できます。
品質向上
MBSEは、モデルを用いることでシステムの検証や解析も容易になります。さまざまな条件下での検証と評価を行い、設計や開発、製造面での最適化も可能です。
製品やシステムそのものの品質向上にもつながるでしょう。
モデルの長期的保守と管理が可能
MBSEに用いるモデルは、ドキュメントベースの文書よりも長期的保守と管理が容易です。モデルはすべての関係者で共有し、内容の改善や修正も簡単にできます。
長期的なドキュメントの保守によるモデルの資産化や、技術継承への活用にもつなげられます。
リスクマネジメントの強化
モデルを用いて検証と分析を行うと、潜在的なリスクの特定も容易になります。
システム内のリスクマネジメントの強化につながります。
MBSE導入で発生する課題
MBSEは多くのメリットがあり、取り扱う製品によっては導入するメリットが非常に大きい一方、導入までには課題も少なくありません。
ここではMBSE導入で発生しやすい課題を解説します。
専門的な知識やスキルを持つ人材が必要
MBSEを構築するには、モデルベース標準言語であるSysMLによるモデリングをはじめ、専門的な知識やスキルが必要です。ドキュメントベースのシステムズエンジニアリングは理解できていても、モデルベースでのシステムズエンジニアリングの知識やスキルを持つ人材が自社にいない、という企業も多いでしょう。
専門的なスキルを持つ人材の採用や育成だけに多くの負担や費用、時間がかかることも、MBSE導入が進まない理由のひとつです。
参考にできるノウハウが少ない
自社でMBSEの構築や導入を目指し内製化を進めようとしても、参考にできるMBSEのノウハウやケースが少ないことも課題のひとつです。日本ではMBSEの事例そのものが少ないことに加えて、MBSEの推進が進んでいる欧米でも、MBSEのノウハウは多くの企業がブラックボックス化しています。
一般社団法人システムズエンジニアリング研究会の資料によると、「経験者が0でMBSEを実践すると、失敗する可能性は95%以上になる」としています。ノウハウがない、かつ自社内にMBSEの経験者がいないことも、MBSE導入の障壁となっていると言えるでしょう。
小規模・単純なシステムにはメリットが小さい
MBSEは複雑化したシステムの効率化、最適化を目的に生まれた概念のため、小規模かつ単純なシステムにはメリットが小さいかもしれません。
特に、既存のドキュメントベースでのシステムズエンジニアリングで円滑に業務が遂行できている場合、MBSEを取り入れると手間や負担が増えるためコストに見合ったメリットは実感しにくいでしょう。
自社の製品やシステムの状況に応じて、MBSE導入の可否を判断できる必要があります。
スムーズなMBSE導入には支援サービスがおすすめ
日本ではMBSEの導入事例が少なく、ノウハウも蓄積されていません。自社のMBSEの内製化を目指す方法としておすすめなのが、MBSE導入をサポートする外部の支援サービスの利用です。外部の支援サービスなら自社でのリソースやスキル、ノウハウの有無に影響されず、MBSEの導入が実現します。
たとえばテクノプロ・デザイン社では、市場不具合を減らし、効率的かつ安定的な開発手法を実現したい自動車メーカー様のニーズに対し、SysMLを使用したシステム設計書の作成~システム検証環境の構築による、MBSEの適用支援を提供しました。その結果、車両試験でしか発見できなかった不具合の早期発見および試験中の試験車両の確保の90%削減を実現しています。
MBSEの経験豊富な支援サービスを利用することで、スムーズな導入が期待できます。
まとめ
MBSEの概要や従来のドキュメントベースのシステムズエンジニアリングやMBDとの違い、重要性やメリット、今後の課題とスムーズな導入方法を解説しました。これからもMBSEの必要性は増していくと思われます。外部の支援サービスの利用など、自社の負担が少ない方法でのMBSE導入を検討してみると良いでしょう。
MBSE適用のためのソリューションを提供しているテクノプロ・デザイン社には、モデルを用いた手法を適用し、効果的・効率的な開発の支援を行った実績が多くあります。ぜひ一度お問合せ・ご相談ください。
モノづくりからIT産業まで幅広いテクノロジーに秀でたエンジニアを7000人以上有し、日本全国に展開している拠点が確実なソリューションを迅速に提供します。