モデルベース開発

モデルベース開発に不向きな分野とは?自動車以外での開発と具体例

モデルベース開発はおもに自動車分野の開発技術として取り入れられてきましたが、近年自動車以外の分野でもモデルベース開発を導入するケースも多くなりました。
今回はモデルベース開発向き・不向きそれぞれの分野とメリットやデメリットを解説します。

モノづくりからIT産業まで幅広いテクノロジーに秀でた7000人以上のエンジニアを有するテクノプロ・デザイン社は、将来の内製化も踏まえたモデルベース開発支援を全国規模で行っています。
ぜひお気軽にお問合せ・ご相談ください。

目次

モデルベース開発とは

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ここではモデルベース開発の概要を解説します。

モデルベース開発の概要

モデルベース開発とは”動く仕様書”となる「モデル」を作成し、モデルをベースにコンピューターやシステム内でシミュレーションを行い、開発を進める手法です。
モデルベース開発の英語”Model Based Development”の略語である「MBD開発」とも呼ばれています。

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モデルの作成には専用ソフトを用います。代表的なソフトがMathWorksのMATLAB/Simulinkです。作成したモデルは仕様書としても、試作(プロトタイプ)としても活用します。

モデルベース開発の詳細や、モデルベース開発におけるツールについては以下の記事をご覧ください。

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従来の組込み開発とモデルベース開発との違い

従来の組込み開発では、テキストやフローチャートで作成したシステム仕様書がベースとなって開発が進められてきました。システム仕様書を元にソフトウェア設計、コーディングといった順序で進行します。

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モデルベース開発では、仕様書をコンピュータ上の「モデル」として作成します。モデルが「動く仕様書」となることで、さまざまな条件でのシミュレーションを低コスト・短時間で行うことができます。

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モデルベース開発とCAEとの違い

CAE(Computer Aided Engineering)とは、コンピュータを使用して製品や製造プロセスの設計・解析を支援する工学技術です。コンピューター上でシミュレーションを行う手法、という点はモデルベース開発と似ていますが、シミュレーションの対象や目的が異なります。

モデルベース開発におけるシミュレーションは製品やシステムの全体像が対象ですが、CAEはある形状をともなう特定の部分や箇所が対象です。モデルベース開発は製品やシステム全体の設計や最適化、開発初期段階での問題の発見と解決が目的ですが、CAEはある特定分野の問題の特定と解決が目的となります。

モデルベース開発については以下の動画も参考になります。

引用:これからはじめる!モデルベース開発(初心者向け)
引用:これから始める!MATLAB/Simulinkによるモデルベースデザイン (MBD)

【自動車以外も!】モデルベース開発に向いている分野

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モデルベース開発は、おもに自動車や航空・宇宙産業といった分野で導入されてきた開発手法です。IT技術の進歩や専用ソフトのリリースなどを受け、モデルベース開発は従来の分野以外のさまざまな分野で導入されるようになりました。
モデルベース開発と親和性の高い分野について解説します。

複数回の検証が必要な産業

モデルベース開発と親和性が高いと言えるのは、安全性の担保のために何度も検証を行う必要がある分野・産業です。
モデルベース開発は、動く仕様書であるモデルをそのまま試作として利用してシミュレーション可能です。検証に必要な試作の回数を減らせるため、安全性は担保しつつも開発から製品化までのプロセスを効率化でき、コスト削減にも効果的です。

具体的には、以下の産業が向いていると言えるでしょう。

自動車産業

自動車産業はモデルベース開発が特に進歩・浸透している分野です。
特に自動車はビジネスだけでなく、日常生活とも密接に関わる製品です。環境への配慮、自動運転の搭載、衝突防止性能やブレーキ性能の向上といった、市場のニーズも変化も日々変化します。
スピードの早い市場ニーズへ対応するためにも、開発プロセスの効率化とコスト削減が叶うモデルベース開発は有効と言えるでしょう。

航空産業・宇宙産業

海外では、航空・宇宙産業でもモデルベース開発の導入が活発となっています。
航空機、衛星やロケットといった実機の試作はコストが高く、検証の規模も大きくなります。
モデルをシステムやコンピューター上で検証できるモデルベース開発なら、試作や検証にかかるコストや負担の軽減も実現できるでしょう。

実機計測データが蓄積されている分野

実機計測データが蓄積されている分野は、従来の組込み開発からモデルベース開発への転換もスムーズに行えます。
これまでの組込み開発による実機計測データをそのままモデルへ置き換えることにより、計測や検証する実機ごとに新たなモデルの作成が少ない労力でおこなえるためです。
たとえば自動車産業なら、エンジンやブレーキといった分野が該当します。

今後導入が予測される分野

現在モデルベース開発が導入されている分野は、主に自動車、航空・宇宙産業です。
そして今後は、以下の分野への導入が進むと予想されます。

・鉄道産業
・ロボット産業
・物流産業
・医療機器産業

これらの産業は、自動車や航空・宇宙産業と同様に安全性の担保が必須であり、試作のコストや検証の負担が大きい分野と言えます。モデルベース開発が、それらの課題解決に役立つことが期待できるでしょう。

モデルベース開発に不向きな分野

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モデルベース開発は、向いている分野では従来の組込み開発と比較して大きなメリットが得られる一方、逆に向いていない分野もあります。
ここではモデルベース開発に不向きな分野をご紹介します。

(1)化学反応が開発に影響する分野

熱反応、光化学反応、触媒反応、燃焼反応、イオン反応などの化学反応を利用した製品やシステムの開発にはモデルベース開発は不向きです。化学反応はモデル化が難しいためです。

たとえば以下のような分野が該当します。

・ガソリンの燃焼反応
・物質の凝固
・酸化

感性が影響する分野

人の五感が影響する分野にも、モデルベース開発は不向きです。五感は化学反応と同様にモデルによる視覚化が難しいためです。

たとえば以下のような検証において正確な結果を出すためには、従来の試作実機が必要となるでしょう。

・製品の手触り
・座り心地
・嗅覚による感じ方などの検証

制御をともなわないソフトウェア分野

制御をともなわないUI中心のソフトウェアは、シミュレーションによる検証の重要性が低いためモデルベース開発はあまり取り入れられていません。

たとえば以下のような開発が該当します。

・事務用ソフト
・スマホアプリ

モデルベース開発のメリット

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モデルベース開発の導入を検討する背景にあるのが、モデルベース開発によって得られる業務効率化やコスト削減などのメリットです。
ここではモデルベース開発がもたらすメリットを順に解説します。

各工程で一気通貫で連携が取れる

組込みシステム開発では、システム仕様書作成、ソフトウェア設計、コーディングと独立した工程で進行します。
そのため、工程ごとに作業が分断されやすいのが特徴です。作業が分断するとレビューや検証の際の連携不足、伝え漏れや間違いといったコミュニケーションミスが発生しやすくなります。

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モデルベース開発は、モデルを「動く仕様書」としても、シミュレーション実行やハードウェアに実装するものとしても活用するため、各工程が一気通貫となります。
各工程間での連携が取りやすく、ミスの防止や作業の効率化にもつながるでしょう。

コーディング工程の削減

モデルベース開発専用ソフトウェアには、自動でコードを生成できるACG(Automatic Code Generation)という機能が搭載されています。モデルベース開発で作成したモデルをACGによって自動でコードを生成できます。

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検証件数ごとのコード生成の負担がなくなるため、コーディング工程の削減による業務の効率化、メンバーの負担軽減、コーディングミスの削減、リソース不足の解消などが実現します。

検証の効率化による短期化・コスト削減

従来の組込み開発では試作の実機やハードウェアを使用して行う検証を、モデルベース開発においてはモデルによって行います。

モデルはコンピューターやシステム上で作成し、そのまま検証が可能なため、従来の検証に必要だった試作の制作や検証下の環境整備などが不要です。
検証は何度も行え、モデルと従来の試作を比較しての複製や改良も簡単に行えます。検証の工程が効率化し、工程の効率化や短期化、検証精度の向上、コスト削減ももたらします。

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初期段階での課題や問題の発見確率の向上

モデルベース開発では、均一化されたモデルを他の製品やシステム開発に転用することも可能です。
組込み開発のように、試作の制作完了を待たずに検証に入れます。スピーディに検証に入ることで、初期段階で設計ミスや課題、問題点を発見できることも大きなメリットです。
課題やミスを早期発見できることで、変更コストやリスクを大幅に削減できるでしょう。

フィードバックの効率化

モデルベース開発では、モデルが仕様書でもあり試作でもあります
検証結果をそのままモデルへフィードバックできることもメリットです。組込み開発で発生しがちな、検証結果の仕様書へのフィードバック忘れの防止も期待できるでしょう。

モデルの資産化

モデルベース開発で作成したモデルは、自社の資産となります。
モデルは仕様書であり検証結果でもあるため、従来のシステム仕様書や試作よりも価値が高いと言えます。資産となったモデルは、新製品やシステムの開発、技術の継承にも活用できるでしょう。

モデルベース開発のデメリット

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モデルベース開発はメリットが多い一方、知っておくべきデメリットもあります。
ここでは、モデルベース開発の導入前に覚えておきたいデメリットを解説します。

設計時の工程増

モデルベース開発は、設計時の工程が増えるというデメリットがあります。

従来の組込み開発では紙の仕様書、コーディング、試作、検証の順序で行うのに対し、モデルベース開発は仕様書と試作がモデルに置き換わります。そのため、仕様書+試作(モデル)、コーディング、検証の順序となります。
全体的な工程数は変わりませんが、設計段階の工程が増えることで設計者のリソース不足、開発体制のバランスが崩れるなどの問題が発生する可能性があり、配置の見直しなどが必要になるかもしれません。

専門的なスキルやツールが必要

モデルベース開発の導入には、専門的なスキルが必要です。
技術者の育成、教育、採用などの手間やコストが発生します。モデルベース開発を行うための専用ソフトウェアやツールも必須です。

モデルベース開発は初期投資が多く導入へのハードルが高いため、特に予算が潤滑でない中小規模の企業での導入は進まない理由にもなります。
モデルベース開発部門の内製が難しい場合には、外部の支援サービスへ外注する方法も有効でしょう。

モデルベース開発のメリット・デメリットは以下の記事も参考にしてください。

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モデルベース開発の具体例

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引用:【開発事例】「不具合の早期発見」「開発ロス削減」に貢献するMBD・MILSとは

モデルベース開発がもっとも進んでいる分野が自動車分野や航空・宇宙開発分野です。ただし、すべての企業がモデルベース開発を内製しているわけではありません。外部の支援サービスを利用し、モデルベース開発の導入をスムーズに進める方法も有効です。

テクノプロ・デザイン社は、自動車分野のモデルベース開発の導入支援として、「令和2年度経済産業省補助事業」への参画を目的とした「EV車両を軸とした制御開発のための2階層モデルの構築」を行いました。

経済産業省公開の「EV第1階層」モデルに対し、EVにおける熱マネの航続距離への影響等を定量的に可視化でき、制御開発をマネージメントできる第2階層の物理モデルを構築しました。 METI要求に沿ったモデル作成、ガイドライン作成、車室内への影響(日射やCo2濃度 )の検証および自技会での成果発表を行い、可読性のよい成果物であると評価を得ています。
(引用:https://www.technopro.com/design/business_area/solution/mbd_modeling/

また、「不具合の早期発見」「開発ロス削減」といった課題解決事例では、モデルベースにおけるMILS環境への適合手法についてもご紹介しています。

モデルベース開発の事例は、以下の記事も参考になります。

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まとめ

モデルベース開発の向いている分野・不向きの分野についての解説を中心に、MBD開発について紹介しました。
モデルベース開発は今後多くの分野や産業に導入されていくでしょう。スムーズな導入には外部の支援サービスもおすすめします。

テクノプロ・デザイン社では多角的なモデルベース開発支援サービスを提供しています。要件定義からモデリングまでのシームレスな設計をはじめ、モデルベースシステムズエンジニアリングの構築支援、モデルベース開発に関する人材育成やコンサルティング支援も可能です。お客様の課題に合わせたモデルベース開発支援をご提案いたしますので、ぜひお気軽にお問合せ・ご相談下さい。

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