モデルベース開発(MBD)は、「動く仕様書」とも呼ばれるモデルを利用し、設計段階から多彩な検証を繰り返すことが可能な、優れた開発手法です。これまでは自動車業界でもっとも活用されてきており、近年は自動車以外のさまざまな分野においても導入が広がりを見せています。
本記事では、モデルベース開発の基本的な流れや、製造業における必要性、メリット・デメリットについて解説します。また、自動車以外の分野におけるモデルベース開発の向き・不向きや具体例も紹介します。
また、モデルベース開発の開発支援なら、豊富な経験と実績を持つテクノプロ・デザイン社にぜひご相談・お問い合わせください。モノづくりからIT産業まで幅広いテクノロジーに秀でたエンジニアを7000人以上有し、日本全国に展開している拠点が確実なソリューションを迅速に提供します。
モデルベース開発(MBD)とは?
モデルベース開発(MBD)は、制御システムの設計段階からその仕様をモデルを使って表現し、設計段階から仮想上のシミュレーション環境を活用して検証を繰り返しながら進める開発手法です。
設計段階からシミュレーションによる検証を繰り返すことで、システムの複雑化が進む製造業において、高品質の製品開発を効率よく実現できる手法として注目を集めています。
モデルベース開発では、物理システムや制御システムを抽象的に表現するモデルに加え、以下のようなMILSやHILSなどのシミュレータ環境、コードの自動生成技術などを活用します。
ここでは、モデルベース開発で使用されるシミュレーション環境やプロセスを実際の開発フローに沿って解説します。
モデリングとMILSによるシミュレーション
モデルベース開発における中心的な概念は、実物を使用せず対象の製品を可視化できる「モデルによるシミュレーション」です。
これらは実際の挙動を表現するプラントモデルや、システム制御のアルゴリズムやロジックを表現する制御モデルを構築し、製品やシステムの開発プロセスにおいて重要な役割を果たします。
モデルによるシミュレーションは、MILS(Model In the Loop Simulation)という枠組みの中で行われます。仕様設計段階の制御モデルとプラントモデルで構成された評価環境であるMILSは、開発序盤の要件分析や基本設計工程で用いられ、シュミレーション動作を確認しながら制御モデルの仕様を検討することができます。
ツールは、Matlab/Simulink、UML(Unified Modeling Language)、SysML(Systems Modeling Language)などが広く利用されています。
【参考記事】
MILSについては以下の記事で詳しく解説しています。
また、Matlab/Simulinkについては以下の記事で詳しく解説しています。
バーチャルモデルを活用したRCPによる検証
モデルによるシミュレーションが完了すれば、次は実機を使用した検証です。
従来の方法であれば、コントローラーユニット(制御システム)の現物と、制御対象の現物を繋げて検証を行います。しかし、モデルベース開発におけるテスト手法RCP(Rapid Control Prototyping)ではコントローラーユニット(制御システム)の実機を使用せず、バーチャルのコントローラーユニット(制御システム)をプロトタイプとして運用し、実機の制御対象を稼働して検証が行えます。
RCPでは、MILSでは確認できない電気ノイズの影響やプラントモデルで模擬できていない制御対象の動作確認など、実機と近い環境で制御モデルの評価を行うことができます。コントローラーユニット(制御システム)の実機を用意することなく行えるため、迅速で確実な開発を行えます。
自動コード生成ACGとSILSによる検証
自動コード生成ACG(Automatic Code Generation)は、モデルから対象の製品に実装するためのソフトウェアコードを自動的に生成します。
微調整が必要ではあるものの、このアプローチにより、人為的なコーディングの手間を大幅に削減し、同一の生成方法を取るため一貫性のあるコードを生成できます。
近年オープンAIの目覚ましい進化があるように、コード生成AIによるコードの精度向上がACGを後押ししています。
また、ACGで自動生成された制御コードは、SILSによりモデルからコードに置き換えた影響について動作検証を行います。SILSによる検証で確認されたコードはECUのコードと結合し、ECUソフトウェアとなります。
HILSによる実働検証とシステム統合
開発工程終盤のテスト工程でコントローラー実機を検証する環境として、HILS(Hardware In the Loop Simulation)があります。
HILSでは実際のコントローラーを使い、バーチャルで構築したプラントで稼働検証が可能で、システムテスト、実機テストの工程で用いられます。
HILS環境では、ECUをHILS装置に接続し、HILS装置はシミュレーションの結果をIO信号を模擬してECUにフィードバックします。そしてフィードバックされた情報によってECUは新たに制御を実行します。
HILSは、実機がなくても実機と近い環境でECUソフトウェアの評価を行うことができます。しかも実機のアクチュエーター を使ったテストに比べて安全で効率的な手法と言え、異常な状況や特殊な条件のテストが容易に行えます。これにより、実機作成前の不具合発見につながるため手戻りを減らすことが期待できます。
HILSは、モデルベース開発全体の導入に至る前段階としてHILSのみ導入するケースも見られます。開発の効率化や安全性アップなど大きなメリットを感じられるでしょう。
特に、様々な環境テストが必要な自動車や航空機などの制御システム開発において広く利用されています。
【参考記事】HILSについては以下の記事で詳しく解説しています。
【参考記事】MILS、SILS、HILSの違いについては以下の記事で詳しく解説しています。
【関連動画】モデルベース開発については以下の動画も参考にしてください。
モデルベース開発の背景と必要性
モデルベース開発は従来の手法に比べて効率的で品質の高いソフトウェア開発を可能にしました。
IT(Information Technology)化・DX(Digital Transformation)化、そして高度に発展するAIが製造業を成長させる中、いかにモデルベース開発が必要なのか、その特徴から説明します。
高機能・複雑化していくシステム制御への対応
現代のシステムやソフトウェアはますます複雑化しています。
従来型開発では、プログラミング言語を使用してソースコードを手動で記述し、アルゴリズムやロジックをテキストで表現します。そのため高機能であるほど手間や時間がかかり、 情報伝達の側面でも共通認識を得にくいことが少なくありません。さらに要件変更があればコード変更、変更による影響の特定と修正など手動で行い、コメントやドキュメント、トレーシングツールを使用しトレーサビリティを確保することになります。
一方、モデルベースの開発では、視覚的なモデルを使用して設計や仕様を表現します(例: SimulinkやUML)。
モデルは視覚的であり、開発者はブロック図やダイアグラムを通じてシステムの構造や挙動を理解します。要件変更がある場合、モデルを視覚的に変更し、モデルから自動生成されたコードを更新することで変更に対応します。そして変更によるトレーサビリティは自動で行われます。
従来型開発 | ・ソースコードは手動で記述 ・要件変更などの際の修正も手動 ・トレーサビリティの確保が煩雑 |
モデルベース開発 | ・設計や仕様は視覚的なモデルにより表現するため理解しやすい ・修正時には、コードが自動生成される ・トレーサビリティの確保も自動 |
属人的な脆弱性がある従来型開発と比較して、モデルベース開発では自動コード生成に伴い変更が自動的に記憶されるという強みがあり、高機能・複雑化していくシステム制御に効率よく対応することができます。
巨大化する組込みシステム市場
モノのインターネットと呼ばれるIoT(Internet of Things)の発展により、デバイスのネットワーク接続が増加し、組込みシステムは制御や通信を担いIoTの進展に寄与してきました。
自動車産業では安全性や利便性の追求が常に求められ、医療現場ではロボットアプリの精緻な制御が必要であり、一般家庭に目を向ければスマートホームデバイスの登場など、組込みシステム市場の拡大は留まることを知りません。
普及に伴い、組込みシステム無しでは生活が成り立たないと言っても過言ではなく、その複雑なシステムに対応するためにモデルベース開発の必要性も高まっています。
自動生成技術(Automatic Code Generation)の進歩
「ACG(Automatic Code Generation)」とはモデルからコードを自動生成する技術です。主にソフトウェア作成工程にて用いられます。
人に頼らずにコードの自動生成されるため、効率的なモデルベース開発を強力に進めます。
近年、モデリング言語そのものの進化や、コード生成ツールの改善、統合開発環境(IDE)の進展による開発側のレベル向上が進んでいます。そして生成されるコードの品質や適応性は洗練され、モデルベース開発の進展に大きく貢献しています。
また、モデルベース開発に限らず多様なプラットフォームへの対応が進んでおり、大規模プロジェクトや組込みシステム開発において生産性向上と品質向上に寄与しています。
モデルベース開発と従来型Ⅴ字プロセス開発の違い
従来型Ⅴ字プロセス開発は、モデルベース開発と対をなす手法です。
段階的かつ構造的なアプローチを提供する従来型V字プロセス開発は、要件定義からテストまでの各段階が対応し、成果物が次の段階の基盤となります。ひとつひとつ確実に進行していくプロセスですが、この手法は柔軟性に欠け、要件変更が後の段階に影響を及ぼしやすいなどの課題があります。
本項では従来型Ⅴ字プロセス開発とモデルベース開発の違いについて解説します。
開発にかかる手間や時間の違い
従来型Ⅴ字プロセスの課題として挙げられる点は、開発が前の段階の完了を待たなければならないことです。また、設計工程を行い、製造・実装を経てテスト工程に入るため、上流工程が不具合の原因となっていてもテストを行うまで発見できないことがあります。これは変更への対応が煩雑である上、原因となった段階まで手戻りが発生するため、開発に手間や時間が余計にかかります。
モデルベース開発なら、設計段階から各段階でモデルを用いた検証を行いながら開発を進めることができます。そのため上流工程が原因の問題も早い段階で見つけられ、システムテストや実機テストの段階になってから上流工程へ手戻りが起こることを予防できます。
開発コストの違い
従来型V字プロセス開発は実機を使ったテストを行うまで問題点が発見されづらく、不具合が見つかれば設計段階まで戻って修正した上で、再検証用のテスト機を準備する必要があります。そのため、テスト機製作のコストや、テスト自体のコストなどがかさみます。
モデルベース開発では、実機を用いた検証の前に各種シミュレーション環境における検証を何度も繰り返すことができます。シミュレーションなので実際のテスト環境を準備するコストもかかりません。
情報共有や理解のしやすさの違い
従来型Ⅴ字プロセス開発ではテキストを主体に出力された設計書や要件定義によって齟齬が生まれ、コミュニケーションや理解に課題を抱えることがあります。
設計書や要件定義書から必要な情報を読み解くには、各関係者がこれらを理解するだけの知識を必要とします。誤解が生じやすく、予測困難な障害やコストの原因となることも少なくありません。
モデルベース開発では、モデルを「動く仕様書」としても活用します。テキストベースの仕様書などと比べて情報の共有が容易であり、各担当間でのコミュニケーションもとりやすくなります。
【参考記事】V字モデルについては以下の記事でも詳しく解説しています。
【自動車以外も紹介】モデルベース開発に向いている分野・不向きな分野
モデルベース開発はスムーズで高品質な製品の開発やコストカットなど多くのメリットがある手法ですが、すべての分野に向いているわけではありません。
ここでは、モデルベース開発に向いている分野と向いていない分野を自動車以外の業界も含めて説明します。
モデルベース開発に向いている分野
向いている分野 | 例 |
何度も検証を行う必要があるもの | 自動車産業、航空・宇宙産業 |
実機による計測データが蓄積されているもの | エンジンやブレーキ |
モデルベース開発がもっとも導入されているのは自動車産業です。自動車はニーズの変化に合わせた新車の開発が常に求められ、品質を重視しながらスピード感のある対応を実現するためにも、モデルベース開発が非常にマッチしています。また、さまざまな状況における事故や故障などの検証も重要で、実機なしで検証を積み重ねられる自動車業界にぴったりなのです。
今後は、試作機製造コストが非常に高い上に繰り返しの検証が大切な航空・宇宙産業にも、実機の製作が最低限に抑えられるモデルベース開発が求められるでしょう。特にさまざまなシチュエーションをリアルで再現することが難しいケースが多い業界であるため、モデルベース開発の有用性はかなり高いです。
その他にも以下の分野へのモデルベース開発の活用が期待されています。
鉄道、ロボット、物流機器、医療機器、重機、建機、納期、産業用ロボット、鉄道、パワーコンディショナ、無線通信、オーディオ、信号処理、画像処理、AI、ディープラーニングなど |
モデルベース開発が不向きな分野
不向きな分野 | 例 |
化学反応も踏まえて開発する必要があるもの | ガソリンの燃焼反応、物質の凝固、酸化などが関連する分野 |
感性が影響するもの | 製品の手触り、座り心地、においなどが関連する分野 |
制御を伴わないもの | 事務用ソフト、スマホアプリなど |
化学反応や感性、五感など「モデル化」が難しい分野にはモデルベース開発は不向きです。
また、制御を伴わないものの開発においては検証の必要性が低く、モデルベース開発を導入するメリットがあまりないため、導入コストばかりがかかってしまいます。
モデルベース開発のメリット&デメリット
ここでは、モデルベース開発導入のメリットとデメリットを説明します。
メリット
コスト削減
モデルベール開発では、実機を使わずに検証を行いながら開発を進められるため、コストを大幅に削減可能です。
検証用実機を使用する場合には、その制作費用はもちろん、テスト環境の手配にもコストがかかります。さらに不具合が発見されれば設計から見直す必要があり、修正後にさらに検証用実機を用意しなければなりません。
モデルベース開発導入におけるコストはかかりますが、長期的な視点ではコスト削減につながります。
工期短縮
現代の製品開発は、システム全体が複雑化し開発期間が長くなりがちである一方、市場の変化が激しく製品ライフサイクルは短縮しています。
モデルベース開発は、視覚的なモデルを活用することで開発者は高い再現度を目視しながら開発が行えます。多数の人間が共同で進行するプロジェクトにおいて「情報が正しく伝わりやすい」ことは、メンバーが内容を正しく理解しやすく、開発スピードなどへも大きな効果が期待できます。
また、各プロセスで検証を繰り返しながら開発を進めることで手戻りのリスクが減少することも、工期短縮に大きく貢献します。
品質向上
モデルベース開発における品質向上は、自動生成技術ACG(Automatic Code Generation)の活用によって強化されています。自動的にコードが生成されるので、コードを打つ技術者のスキル差、癖やヒューマンエラーなどで起こる品質のバラツキを予防できるからです。
安定したコーディングは一貫性を持ち、検証方法が選定しやすく迅速となり、結果、安定した品質を実現します。
また、モデルベース開発は開発プロセスの各工程で検証を繰り返すことができます。MILSやHILSなどを用いた検証では、現実では用意することが難しい環境を設定しテストすることも可能です。そのため、製品の安全性や品質の向上が期待できます。
【関連記事】モデルベース開発のメリットについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
デメリット
導入コスト
モデルベース開発のデメリットの一つは、導入コストが高いことです。専用のツール(Simulink、TargetLinkなど)やエンジニアのトレーニングに投資が必要であり、これには膨大な初期費用になる可能性があります。
また、既存の開発プロセスや環境への統合も課題となり、変更に伴う適応コストも避けられません。
自動生成コードの実用性確認
自動生成されたコードは、人の手でコーディングされたコードのように人が理解することを考慮していない分、複雑です。
難解なコードを扱うには十分な検証体制とデバッグが必要ですが、自動生成に知見のある開発者でなければ対応が難しいかもしれません。
管理の難しさ
バーチャルモデルを活用するため、モデリングを深く理解している技術者が正確に管理しなければなりません。
開発に合った管理をするには、モデルがバーチャル上で実機と同等の性能、物理的な挙動を再現する難しさを理解し、外部環境の再現や相互関係など複雑な調整に対応する必要があります。
【関連記事】モデルベース開発の課題とその解決方法については、以下の記事でも詳しく解説しています。
モデルベース開発をスムーズに導入するには、開発支援サービスの活用も検討すると良いでしょう。モデルベース開発は導入コストが高額である一方、開発工程の増加や検証工程の負担、安全性や品質維持などにおける課題解決に非常に有効な上、開発コストの削減も期待できます。
モデルベース開発に関するご相談は、経験豊富な8000名のエンジニアが在籍するテクノプロ・デザイン社へお問い合わせください。
モデルベース開発の導入を成功させるポイント
モデルベース開発を導入するには、大きな負担やコストがかかります。スムーズな導入のために覚えておきたいポイントを解説します。
事前構築済みモデルを活用する
モデルベース開発を導入するには、従来のテキストやフローチャートによるドキュメントの仕様書、および実機の代わりとなるモデルの作成(モデリング)が必要になります。
そしてモデリング開発環境を構築するには、専用のツールやノウハウを準備しなければいけません。
自社にモデリングのノウハウがない場合やモデルの作成者がいない場合、1からモデリングをしなくても、事前に構築済みのモデルを購入する方法があります。構築済みのモデルは、設計ニーズに応じてアルゴリズムの変更、追加、組み合わせができるため、新製品のモデリングも1から作るよりも簡単にモデリングができます。
ただし、構築済みモデルがリアルタイムでの動きをしない場合など、適切な検証を行えるよう構築済みモデルを変更・調整するスキルは必要です。製品の仕様や環境に応じた調整を行うことで適切な検証が実現します。
単一プロジェクトから段階的に導入する
モデルベース開発を設計するには、まず単一プロジェクトからはじめて、段階的に導入するのがおすすめです。
プロジェクト全体をモデルベース化しようとしても人員や費用が足りない、現場の負担が大きい、定着しない、といった課題が発生することも少なくありません。
プロジェクトの中でも、モデルベース開発に切り替えやすい箇所からテスト的に導入しましょう。モデルベース化が成功した部分をベースに、次の工程またはプロジェクトでモデルベース化を進めていくと移行がスムーズです。
単一プロジェクトから段階的にモデルベース開発を設計することで、現行のプロジェクトの進行を妨げることなくモデルベース開発の設計を進められます。
まずは検証工程のみHILSを導入する
従来の開発方法をすべてモデルベース開発に移行すれば、設計段階、システム設計、検証段階など多くの場面でモデルベース開発のメリットを得られるでしょう。
しかし、予算や現場の負担などの問題も無視できません。
そのような場合には、開発プロセスを一気にモデルベースに置き換えるのではなく、まずは検証プロセスのみHILSに置き換える方法もおすすめです。
HILSにすることで、ECUの制御対象がプラントモデルになり、ECUソフト開発は従来のドキュメントベースのままで、制御対象のみをモデルで作成することになります。ここで作成したプラントモデルは将来MILSを導入する際に、HILSのプラントモデルを基にしてMILSのプラントモデルを製作することができ、導入の難易度が下がることが期待できます。
モデルの精度を高めるツールや技術を導入する
モデリングの精度を高められるツールや技術の導入も検討しましょう。
モデル作成者や設計者の育成も必須ですが、モデリングの精度を高めることで、作成者や設計者の負担を軽減しつつ品質向上やモデリングプロセスの効率化が期待できます。
データの実測環境を整える
モデルベース開発ではシミュレーションに用いる正確な実測データの収集のため、高精度の計測技術やツールを導入する必要があります。
モデルベース開発のメリットは、実機不要でシステム上でシミュレーションができることです。ただし、実測データが不正確、または計測方法が不十分だと検証が不適切な状態で開発が進行するリスクがあります。
検証が不適切な場合、実機によるシミュレーションに移行後手戻りが発生する可能性が高まり、モデルベース開発による業務効率化やコスト削減といった効果を十分に得られません。
正確かつ十分な実測データを収集できる環境整備も進めましょう。
効果を検証する
モデルベース開発によるコスト削減を確実にするためには、コスト削減効果の検証を行うことが重要です。
モデルベース開発の導入によって、設計、開発、検証プロセスにおいて大幅なコスト削減が可能です。モデルベース開発ツールとして代表的なMATLAB/Simulinkを提供するMathWorksによると、モデルベース開発を採用した組織では、従来の手法と比較して20 ~ 60%のコスト削減(※)を実現しているとしています。
(※出典:モデルベースデザインがスタートアップ企業を成功に導く|MathWork)
一方で、モデルベース開発には、人材育成やツールの導入、プロセスの見直し、適切な人員配置などにともなう初期コストが発生します。
モデルベース開発の設計および導入後は、初期費用と削減できたコストから投資利益率 (ROI)を測定し、検証することで費用対効果が測定できます。
現場の負担軽減のための施策を併用する
モデルベース開発の設計にともなってプロセスの短縮化や業務効率化といった、現場への負担軽減効果もあります。ただしモデルベース開発の設計や初期導入段階では、新しい開発手法への移行にともなう現場への負担も大きくなるでしょう。
モデルベース開発の設計だけでなく、組織の人員組織の見直し、ツールの導入、検証の自動化など、モデルベース開発導入にともなう現場の負担軽減のための施策を併用することがおすすめです。
モデルベース開発の早期の導入が成功しやすく、現場に新しい開発手法としての定着が進みやすくなります。
自社の課題に合わせた支援サービスを利用する
モデルベース開発を設計する際、自社に人的リソースやノウハウが不足していることで頓挫してしまうことがあります。スムーズな導入のためには、モデルベース開発に関する外部の支援サービスを導入する方法も有効です。
支援サービスには、さまざまなソリューションがあります。まずは自社のモデルベース開発設計で発生している課題を洗い出した上で、解決できる支援サービスを提供しているベンダーを選びましょう。
たとえばモデルベース開発や設計者の育成に課題がある場合は、ノウハウを獲得できるセミナーを提供している人材育成支援、モデルベース開発とHILSのみの導入で迷っているならコンサルティングサービスなどが挙げられます。
モデルベース開発設計すべてを外部サービスに任せる以外にも、将来の内製化を目指せる支援サービスもあります。
自動車以外も含めたモデルベース開発の具体例
モデルベース開発は世界的にも国内においてもすでに実践され多くの成果をあげています。
その中でも、モデルベース開発を用いた問題の早期発見や、超短期のロボット開発などの成功事例を紹介します。
【開発事例】「不具合の早期発見」「開発ロス削減」に貢献する MBD・MILS とは
システム間を跨ぐ制御機能の検証効率化と、品質向上のための形式検証技術に対する課題をMILS(Model In the Loop Simulation)を活用することで解決した事例です。
「仕様検討設計段階から検証できる」という、早期対応可能なMILSの特性を活かし、結果、「自動車内のコントローラ間の連携不具合の早期発見」を可能としました。
【開発事例】垂直多関節ロボットのメタバース連携
モデルベース開発の納期短縮の強みを活かし、わずか6か月でアーム式ロボットの開発を実現した事例です。
インテグレーションテクノロジー社とテクノプロ・デザイン社が協業し、多人数で共有可能な仮想空間上のシミュレーションプラットフォームOmniverseを利用してプロジェクトを進行しました。
2023年にパシフィコ横浜で開催された「人とくるまのテクノロジー展2023 YOKOHAMA」でも、アーム式ロボットの超短期開発プロジェクトは非常に注目を浴びました。
住友重機械工業|油圧ショベル用の組み込み型モデル予測制御ソフトウェアの開発を加速
油圧ショベルには、重い荷物を積み降ろしする際に、エンジンの回転数を一定に保つ制御が必要です。このような組み込みコントローラーを設計する際には、急激な負荷変動を考慮し、厳しい排出ガス規制や安全性を確保する必要があります。
新しい排出ガス規制への対応を迫られた住友重機械工業のエンジニアは、Simulink® を使用したモデルベースデザインによって、油圧ショベル制御ソフトウェアの設計と実装を加速させました。
【関連記事】モデルベース開発の具体例については以下の記事でも詳しく解説しています。
【関連記事】自動車以外のモデルベース開発の事例については、以下の記事をご覧ください。
モデルベース開発の依頼におすすめの会社3選!
自社でモデルベース開発の導入を検討しているものの、ノウハウや人材の不足などの問題を抱えている場合は、外部の支援サービスを利用するという方法もあります。
ここではモデルベース開発の外注先としておすすめの会社を紹介します。
テクノプロ・デザイン社
モデルベース開発の上流工程から下流工程まで一気通貫でのサポートが可能な会社です。
自動車だけでなく、例えば、農機や建機、物流、航空宇宙、医療など、実機が作りにくい領域、さまざまなシミュレーションが必要な幅広い領域に精通しています。
また、拠点が全国にあるため迅速な対応が可能で、綿密なサービスが期待できることは依頼する際の大きなメリットでしょう。
<会社概要>
本社 | 〒106-6135 東京都港区六本木6-10-1六本木ヒルズ森タワー35階 TEL: 03-5410-1010 / FAX: 03-5410-1011 |
問い合わせ | https://www.technopro-simulation.com/contact/ |
営業所・開発拠点 | 札幌、仙台、山形、郡山、つくば、水戸、宇都宮、群馬、千葉、埼玉、八王子、品川、三田、横浜、川崎、厚木、湘南、新潟、松本、甲府、静岡、浜松、豊田、名古屋、四日市、仮谷、富山、金沢、京都、大阪、神戸、姫路、広島、福岡、北九州、熊本それぞれの住所、電話番号等はこちら |
事業内容 | AI、制御システム、機構・ハードウェア・ソフトウェアを中心とする技術領域における技術開発分野や商品開発分野への技術サービス、コンサルティングサービス |
dSPACE Japan 株式会社
dSPACE Japanは2005年に日本の現地法人として設立されました。ドイツの開発者とともに日本のお客様のイノベーションをいち早く世界に届けている会社です。設計企画段階でのコンサルティングから導入後のアフターフォローまで、広範囲にサポートしています。
<会社概要>
本社 | 〒140-0001 東京都品川区北品川4-7-35 御殿山トラストタワー10F TEL: 03-5798-5460 |
問い合わせ | https://www.dspace.com/ja/jpn/home/career/get_in_contact.cfm |
支店・営業所 | 愛知、宇都宮、大阪それぞれの住所、電話番号等はこちら |
事業内容 | • 自動車、メカトロ向け電子制御ユニット(ECU)開発のためのモデルベース開発 ツールおよびサービス• エンジニアリングおよびカスタマイゼーション |
パーソルクロステクノロジー株式会社
パーソルクロステクノロジーは、2023年に誕生した会社です。
自動車・航空宇宙関連機器・家電・ロボットの設計・開発・実験におけるモデルベース開発(MBD)等を提供しています。
各種研修等さまざまな教育環境を用意している会社で、研究開発・ものづくり・ITの領域において、最新・最高の技術を持ったエンジニアが対応します。
<会社概要>
本社 | 〒163-0451 東京都新宿区西新宿2-1-1 新宿三井ビルディング51F TEL:03-6370-6840 |
問い合わせ | https://persol-xtech.co.jp/contact/ |
拠点 | 仙台、つくば、栃木、宇都宮、大宮、上尾、日野、横浜、浜松、豊田、刈谷、名古屋、京滋、大阪、神戸、広島、福岡それぞれの住所、電話番号等はこちら |
事業内容 | テクノロジーソリューション事業 ・自動車・航空宇宙関連機器・家電・ロボットなどの設計・開発・実験における請負・派遣サービス ・ITシステムやアプリケーションのシステム開発・インフラ設計・運用における派遣・準委任・フリーランスサービス ・AIやDXを活用したIoT、モビリティサービスの導入支援 |
【関連記事】モデルベース開発のツールについては、以下の記事で詳しく解説しています。おすすめツールも紹介しています。
まとめ
今回は、従来型V字プロセス開発との比較などによって、モデルベース開発について紹介しました。
モデルベース開発は今後さらに、自動車業界だけでなく多くの分野や産業に導入されるでしょう。自社でモデルベース開発の導入を検討しているものの、リソース不足やコスト面などの問題を抱えている場合は、外部の支援サービスを利用するという方法もあります。
モデルベース開発に豊富な経験と実績を持つテクノプロ・デザイン社は、将来の内製化も踏まえたモデルベース開発支援を行っています。ぜひお気軽にご相談・お問い合わせください。
モノづくりからIT産業まで幅広いテクノロジーに秀でたエンジニアを7000人以上有し、日本全国に展開している拠点が確実なソリューションを迅速に提供します。