自動車分野を中心に、工程短縮や業務効率化、コスト削減といった課題解決手法として注目されているのが、モデルベース開発(MBD)です。
モデルベース開発における検証プロセスでは、HILS装置を用いて制御対象の振る舞いをリアルタイムにシミュレーションする評価環境を構築します。HILSに用いるリアルタイムシミュレータやテストシステムは幅広いメーカーからリリースされています。
今回の記事では、メーカー各社から発売されている、HILS製品の特徴や事例を解説します。
また、テクノプロ・デザイン社では、HILSの設計からシミュレーション環境構築・検証はもちろん組込み開発からモデルベース開発への移行支援、モデルベース開発人材の育成やコンサルティングまで幅広く支援しています。
自社HILS構築のためのツールやシステムの選び方が分からない、どれを使用すればいいか分からないなど自社でのHILS環境構築が難しい場合にはぜひご相談ください。
HILSのメーカー製品おすすめ7選
モデルベース開発または検証プロセスにおけるHILS導入を進める場合、HILSシミュレータやテストシステムの導入が必須です。自社でシステムやツールの開発・設計ができなくても、各メーカーからHILSツールやシステムを購入することで導入できます。
HILSの各メーカー製品のおすすめ7選を、製品の特徴やおもな導入事例とともに解説します。
dSPACE「SCALEXIOカスタマイズシステム」
dSPACEが提供するHILSシステムの中で、特に汎用性が高いシステムです。
ユーザ固有のアプリケーションや要件に応じてECUとの接続構成を調整できます。単一のECUから大規模なECUネットワークまで、幅広いアプリケーションに対応可能です。
ECUと接続する各種装置(アクチュエータ、センサー)のIO信号を柔軟に模擬することができます。信号特性はdSPACEツール上で設定することが可能です。
また、IO信号の欠陥のシミュレーション(断線/地絡)、幅広い車載通信(CAN、LIN、Ethernet、車載向けプロトコル)をサポートしています。
プラントモデルはSimulinkで作成しSCALEXIO用の実行ファイルにビルドされ、SCALEXIOのプロセッサーボードで高速で処理されリアルタイムに動作させることができます。
自動車分野のエンジン、シャーシ、ボディといった各要素の検証のほか、自動運転、バッテリーマネジメントなどの検証にも利用可能です。一般的な自動車のほか、トラックやF1、ラリーなどのレーシング用途でも導入実績があります。
株式会社デンソーテン「CRAMAS-X(クレマス エックス)」
引用:株式会社デンソーテン
ECUメーカーであるデンソーテンがECU設計・開発を効率化するために開発したリアルタイムシミュレータです。
SILSとHILSによって各コンテンツを共有し、モデルベース開発の各工程をシームレスにつなげます。MATLAB/Simulinkなどで作成したモデルを用いてシミュレーション環境を構築します。
故障箇所を自動で自己診断できる自己判断機能や、ユーザー側で精度調整ができるアナログ精度調整機能を搭載しています。従来モデルであるCRAMAS(2024年1月現在新規受付停止)と比較し、マルチコアCPU&高速PCIeバスの採用により、演算処理を3倍以上高速化、さらにサイズは50%ダウンし小型かつ軽量なデスクトップサイズを実現しました。
自動車メーカーをはじめ、サプライヤー、研究機関での導入事例があります。
Applied Dynamics International「ADEPT Framework」
引用:Applied Dynamics International
リアルタイムシミュレーションを実現する統合型デジタルプラットフォームです。C、C++、Simulink、System Build、 ADSIM、MATLABなどの各種言語に対応しています。
OSの影響を受けないアプリケーションプログラム構築が可能です。ADEPT機能によるI/Oプログラミングの削減、 複数CPUによる分散処理による業務効率化を実現します。
自動車、ジェットエンジン、飛翔体等の研究・開発・試験などの多くのリアルタイムシミュレーション分野で用いられています。
Speedgoat「New Performance Machine P3」
引用:Speedgoat
元MATLAB社の社員が設立したSpeedgoat社製のリアルタイムシミュレータです。MATLAB/Simulinkワークフローを統合したHILSシミュレーション環境を提供します。
150 を超える I/Oモジュールタイプを選択後、テストシステムにプレインストールされるため、MATLABおよびSimulink内からの構築が可能です。Simulink TestまたはXIL 対応のテスト自動化プラットフォームを使用してテストケースを定義および実行すれば、テストの自動化もできます。レストバス シミュレーションを備えた仮想ECUを組み込むことで、障害や故障などの条件を加えたシミュレーションも可能です。
I/Oは前面または背面からアクセスできるため、机に直接置く、ラックに取りつけるなどさまざまな方法で設置できます。長期間の使用を前提とした最新のMATLAB リリースとの継続的な互換性、および応答性の高いアプリケーションのサポートが受けられるのも魅力です。
株式会社PALTEK「超小型ビークル/バッテリ シミュレータ白虎」
引用:株式会社PALTEK
ECU検証環境の構築に必要なセンサー情報が搭載されているため、ECUの機能試験、適合試験を短時間で実現します。HILSシミュレータ環境を即日で導入することも可能です。
ビーグルシミュレータであるSimulinkビークルモデルを搭載。加速度センサ、角速度センサ情報をCANで出力できます。自動走行モードとマニュアル走行モードの2種類のシミュレーションができ、必要に応じて数種類のパラメータ設定もできます。
バッテリシミュレータは入力/出力パラメータ約10種類、バッテリ特性パラメータ約40種類、別オプションでセルバランス制御、SOHなども追加できます。またドアロック、ACCなど任意のCAN仮想ノードを複数フレーム出力も可能です。
小型軽量サイズ、450gのポータブルサイズのため、検証する製品や環境に応じて設置しやすくなっています。カスタマイズすれば自動車、バッテリー以外の分野のシミュレータとしても活用します。
Mywayプラス株式会社「Typhoon HIL」
引用:Mywayプラス株式会社
パワエレコントローラ用デバッグツールです。3.5nsecオーバーサンプリングにより、超高速の200nsecシミュレーションタイムステップを実現しました。最適化された専用ツールを採用することで、ワンクリックでインストール可能で、数秒でコンパイルできるHILS環境を構築できます。
電力変換・モータ制御の試験環境を机上に構築し、試験条件の変更から計測器の設定までパソコン上でできるため、デバッグ作業の工数の大幅削減も期待できます。回路図ベースで直感的にプラントモデルのモデリングが可能なため、モデリングの効率化にも有効です。
パワーエレクトロニクス製品によるHILS環境構築で多くの実績があります。
株式会社A&D「SELENE(耐低温Rapid Prototypingプラットフォーム)」
引用:株式会社A&D
周囲温度-20℃まで動作可能なプラットフォームです。小型、軽量モデルのため車載等の小スペースでのロジック制御確認もできます。スタンドアロン動作や12V、24V、48Vバッテリーでの動作も可能です。
必要に応じてI/O拡張用モジュールを最大2台まで接続できます。Wi-Fi機能が実装済みのため、恒温槽などの密閉空間内でのシミュレーションを行ってもWi-Fi機能を利用して動作確認やパラメータ変更が可能です。
自動車ECU開発用途に限らず、二輪車やロボット開発などに導入実績があります。
【関連記事】以下の記事ではHILSについて詳しく解説しています。。
【関連記事】以下の記事ではモデルベース開発について詳しく解説しています。
HILSの各メーカーの導入事例
自動化やAI等の新技術が搭載される製品開発が増加していることを受けて、製造業においては自動車分野を中心に開発システムが複雑化しています。複雑化する開発システムで発生する工期の長期化や工程の増加、メンバーの負担増といった課題を解決する手法として従来の組込み開発からモデルベース開発(MBD)への移行を検討する企業も多いです。
HILS導入は自動車メーカーだけでなく、他分野の製造業各社でも導入が進んでいます。ここでは各メーカーのHILS導入事例を解説します。
トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車株式会社では、すでに開発システムへのモデルベース開発を導入済みです。HILSによる検証のほか、SLISによる検証、自動コード生成なども実施しています。モデルベース開発により、制御システム開発工程において制御ソフトウェアの開発と制御ハードウェアの開発を並行して行えるようになりました。
車の消費エネルギーに関するIEEE規格のモデル化技術をシミュレーション用の車両モデルに適用したところ、実車両の実験データと高い精度で一致しました。燃費に関する議論を企画段階で実施できるようになり、手戻り防止や業務効率化につなげています。
引用:「組込みシステムの先端的モデルベース開発実態調査」調査報告書
アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
アイシン・エィ・ダブリュ株式会社では2000年頃からHILS装置の開発をスタートしました。その後MATLAB/Simulink/Stateflowなどを利用したモデルベース開発に取り組んでいます。HILSを導入することで、ソフトウェアデバッグに必要な工数の大幅な削減に成功しました。
引用:「組込みシステムの先端的モデルベース開発実態調査」調査報告書
三菱自動車株式会社
2007年秋に、フルビークルHILSを「ギャラン フォルティス」「ランサーエボリューションX」の車両開発に適用しています。フルビークルHILSとは、ネットワークでつないだ車両1台分のECU数十台を一度に評価できるHILSです。
欧州では、Daimler Chrysler社の「Mercedes-Benz AClass」や「同C-Class」への適用、フランスRenault社も車両1台分を評価できるフルビークルHILSの設備の設置といった実績がある中、日本の完成車メーカーがフルビークルHILSの量産車への適用を明らかにしたのは三菱自動車が初となりました。
引用:多様化するHILS シミュレーション技術で車載ECUを評価(日経クロステック)
東芝情報システム株式会社
東芝情報システム株式会社では、自社で開発したHILSツールである「M-RADSHIPS」と、MATLAB/Simulinkを組み合わせたモデルベース開発環境を構築、利用しています。制御ソフトウェアだけでなく、システム全体を対象にモデルベース開発の導入を実現しているのが特徴です。
引用:「組込みシステムの先端的モデルベース開発実態調査」調査報告書
また、HILSの自動車メーカーにおける歴史や導入事例、解決できる課題については以下の記事で詳しく解説しています。
HILSのメーカー製品選びや構築は支援サービスの利用がスムーズ
HILS構築のためのメーカー製品は、製品によって特徴や得意分野が異なります。自社で設計したいHILS環境や製品、理想とするHILS環境の構築には、検証段階で発生している課題に合う機能が搭載されている製品を選ぶ必要があります。
製品が自社の課題に合っていないと、業務効率化や工程の短縮といったメリットが得られないだけでなく、従来の検証プロセスからの移行がうまくいかず開発に遅れが生じる、定着せず費用だけ発生する、といったことが発生する可能性も考えられ、上図のように各社に合ったシステムの構築が必須です。
自社HILS構築のためのツールやシステムの選び方が分からない・どれを使用すればいいか分からないなど、自社でのHILS環境構築が難しい場合には、外部の支援サービスを利用するのがおすすめです。
テクノプロ・デザイン社ではHILSの設計からシミュレーション環境構築・検証まで幅広く対応を行っています。
また、組込み開発からモデルベース開発への移行支援も可能で、HILS環境だけでなく一歩進んだ開発システムの構築の支援も提供しています。
さらに、検証環境やモデルベース開発環境の構築だけでなく、モデルベース開発人材の育成やコンサルティングなど多角的な支援も可能です。
HILSのシミュレーションについて詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
まとめ
HILSの各メーカー企業での導入事例とともに、HILSのメーカー製品のおすすめ7選を紹介しました。開発システムをすべてモデルベース開発へ移行させるだけでなく、検証工程のみHILSへ移行することも可能です。HILSのメーカー製品選定や環境構築に課題を抱えている場合は、外部の支援サービスの利用なども検討し、自社のHILS構築へ一歩前進しましょう。
テクノプロ・デザイン社なら、HILSの設計からシミュレーション環境構築・検証はもちろん組込み開発からモデルベース開発への移行支援、モデルベース開発人材の育成やコンサルティングまで幅広く支援可能です。
ぜひご相談ください。