モデルベース開発

モデルベース開発のメリットとは?知っておくべき注意点、事例も解説

モデルベース開発 メリット 1

近年、自動車業界を中心にモデルベース開発(MBD)が広く普及しています。本記事ではモデルベース開発のメリットを中心に、導入プロセスや注意点などについて徹底解説します。

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目次

モデルベース開発とは

モデルベース開発(MBD)は、「Model Based Development」の略語で、制御システムの設計段階で、制御システムの仕様をモデルで表現し、モデルをPC上でシミュレーションさせて動作検証を行いながら仕様の精度を高める開発手法です。
モデルは数式などを用い制御システムを構成する一部の機能を表現し、入力に対して出力を行うものです。これらのモデルを組み合わせて制御モデルと制御対象モデル(プラントモデル)を作成し、制御システムを模擬します。

従来の組み込みシステム開発では、ドキュメントベースの仕様書を元にした設計が行われ、その後にコーディングとハードウェアでの検証が続きます。このプロセスでは、検証によって問題が出るたびに設計に戻って修正し、さらに検証用の実機の作り直しなどを繰り返すこととなり、時間と労力が莫大にかかります。
モデルベース開発では、制御モデルそのものを仕様書とみなします。制御対象を実機の代わりにプラントモデルで模擬します。
PC上で実際に近い環境を構築し、制御システムのシミュレーションを行えるため、実機環境が用意できない設計段階でシステム仕様の検証を行うことができます。それによりシステム開発工程の短縮化、コストの削減などが実現できます。

すでに自動車業界では、MBDが車載システム開発などで幅広く採用されており、将来的には他の産業にも普及することが期待されています。MBDは、従来の手法に比べて開発プロセスを効率化し、より高品質な製品を迅速に市場に投入するための鍵となるでしょう。

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【参考動画】モデルベース開発については、以下の動画も参考にしてください。

引用:これからはじめる!モデルベース開発(初心者向け)
引用:これから始める!MATLAB/Simulinkによるモデルベースデザイン (MBD)

モデルベース開発のメリット

モデルベース開発を導入するメリットは大きく分けて3つあります。ここではそれらのメリットについて解説します。

コスト削減

従来の組込み開発では新製品の品質と安全性を担保するために、実機の試作を用いた検証が何度も必要です。実機の検証回数が増えれば増えるほど試作する実機の数が増えるため、実機の完成を待つ時間や試作のコストも膨大となります。
さらに、万が一検証段階での仕様変更が発生すると、手戻りにも膨大な時間とコストが発生します。

モデルベース開発では、実機の完成を待たずにモデルを仮想的な環境でシミュレーションできます。
仮想的なシミュレーション環境下であるため、検証は何度も繰り返し行えます。自動検証や24時間検証にも対応でき、より検証プロセスの効率化を進めることも可能です。

モデルベース開発では検証プロセスでの負担とコストを軽減しつつ効率化でき、安全性と品質を担保しながらの工期短縮にもつながります。

研究力の向上

モデルベース開発(MBD)の1つ目のメリットとして、研究力の向上が挙げられます。

モデルベース開発では、設計段階でシミュレーションが可能になりました。そのため、設計段階で設計不備を発見できるようになり、従来のように工程の後半で発見した設計不備に伴う前工程への後戻りの対応の負担を軽減できます。もし検証段階での手戻りが起きても、モデルそのものが仕様書に当たるため仕様変更も容易です。また制御モデルから自動的にコードを生成することができるため制御処理部のソフト設計作業が軽減され、シミュレーション自体が容易に行えるため網羅的な検証も迅速に実行可能です。
これらの負担軽減により開発者はより多くの実験や検証に専念することができ、研究力の向上が期待できます。

また、モデルベース開発の導入により各部署間が連携を取りやすくなることも、研究力向上につながります。
モデルベース開発ではモデルとそこに紐づいた情報は担当部署に関わらず共有されるため、ドキュメントの仕様書にありがちな仕様変更にともなう設計漏れ・設計と検証プロセスでのコミュニケーションミスなどが減少するでしょう。各部署のコミュニケーションがとりやすいことから、よりよいアイデアの創出、さまざまな角度からの研究等に発展することが期待できます。

開発スピードが向上する

モデルベース開発(MBD)の2つ目のメリットは、開発スピードの向上です。

従来は試作品を制作してから行う検証や、検証のための環境整備、検証結果に伴う手戻り等に多くの時間が費やされていましたが、モデルベース開発を導入することでこれらのプロセスを大幅に効率化できます。
モデルベース開発では、設計の段階からモデルを使ったシミュレーションを開始できるため、試作品の制作に掛かる時間や予算を削減できます。また、不備が発見された場合も、パソコン上で即座に修正し、すぐに再度シミュレーションを行えます

自動コード生成ではコーディングの作業時間を大幅に短縮でき、迅速な修正が行え人為的ミスの予防も期待できます。手作業の削減により、高い精度で継続的な検証を行うことができ、短い開発期間で高品質の製品を市場に提供することが可能です。

トレーサビリティの確保が容易

トレーサビリティとは、製品を製造するにあたって、材料から製造工程、流通、販売までのすべての情報を保管し、追跡可能な状態にすることです。万が一、商品に不具合が発見されれば迅速で適切な対処が求められますが、トレーサビリティが確保されていることで、スムーズな原因の特定が期待できます。

モデルベース開発ではモデルが「動く仕様書」として機能すること、そしてモデルから自動コードを生成できることなどから、従来型開発と比べてトレーサビリティの確保が容易に行えます。

モデルを再利用できる

モデルの再利用が可能であることも、モデルベース開発(MBD)における大きなメリットです。

従来の組み込みシステム開発においてもコードの再利用はされてきましたが、MBDではより再利用しやすくなっています。
一度作成したモデルを新たな開発のために再び使用できることで、技術の継承や、よりスピーディな開発、さらにモデル自体の改良を重ねることでの製品の質の向上などが期待できます。
作成したモデルは企業の資産となります。

モデルベース開発のデメリット・注意点とその対策

モデルベース開発にはメリットが多くありますが、導入前に知っておくべき注意点もあります。ここでは3つ紹介します。

設計工程が増加する

モデルベース開発は従来の開発方法と比べて全体的な工数は大幅に削減できますが、設計段階の工数は従来よりも多くなることは知っておくべき点です。

従来の組み込みシステム開発では「V字モデル」が採用され、プログラムや試作品を作成してから検証や適合、評価を実施していました。
一方、モデルベース開発では設計段階で「モデル」を作成しシミュレーションを繰り返すことで、設計と検証を同時に進行します。

実機製作前にシミュレーションを繰り返すことで設計後は大規模な手戻りを予防できるため、従来の手法と比較して時間や全体の工程を大幅に減らすことが可能になります。

ツールを使いこなせる設計者が多く必要

モデルベース開発(MBD)は、従来型の開発プロセスと比較して、検証工程(下図・V字右側)にかかる工数が減少するという特徴があります。従来型の場合は検証に多くの工数が充てられていたため、人員配置も右側に重点が置かれていました。

一方で、MBDでは設計工程(上図・V字左側)に多くの工数がかかるため、これまで通りの人員配置では設計者が不足する可能性があります。これまで検証工程の人員を削減し、設計に必要な各種ツールを扱うことができる設計者を増やすなどの配置転換等が将来的には必要になるかもしれません

習得の手間と時間がかかる

モデルベース開発(MBD)導入時には、専用ツールの習得に手間と時間がかかります。設計者はモデル作成のためのツールや制御工学について熟知する必要があります。また、シミュレーション用のモデル作成など、従来のプロセスでは必要なかった新たな作業が加わるため人材の育成が必要です。

研修制度の整備など会社全体での教育制度の整備や知識の共有が不可欠です。

これらのデメリットに対する対応策として重要なのが、モデルベース開発に精通した人材を育成し、従来型開発から安心して転換できる体制を整えることです。自社の開発スタッフの育成も見据えて、まずは経験豊富なエンジニアの支援を受けながら進めていく方法が成功への近道でしょう。
テクノプロ・デザイン社は、モデルベース開発の導入支援はもちろん、スタッフの育成やコンサルティングなどさまざまな手段でスムーズかつ効果的な導入のお手伝いをいたします。
お気軽にご相談ください。

モデルベース開発の向き・不向きの分野

モデルベース開発(MBD)がどの組み込みシステムに適しているかどうかは、状況により異なります。ここではモデルベース開発のメリットを最大限に活かすため、向いている分野・向いていない分野について解説します。

現在モデルベース開発は、自動車産業航空・宇宙産業でスタンダードになりつつあります。
これは開発対象のシステムの動作をモデルを用いた制御で表現できるためです。そのためモデルベース開発に適しています。
モデルベース開発は、開発コスト削減と開発期間短縮はもちろん、実機では難しい検証が行えるため、安全性と品質の向上に繋がることが非常に大きなメリットです。
今後は、鉄道、ロボット、物流機器、医療機器などの分野にも採用が期待されます

一方で、MBDが向いていない分野も存在します。例えば、事務用ソフトやスマホアプリなど、制御を伴わないUI(ユーザーインタフェース)中心ソフトウェアの開発には現状では適していないと考えられます。

注目されているディープラーニングAIの分野については、現時点ではMBDの採用が限定的ですが、MATLABなどのMBDツールがディープラーニングの機能を提供していることから、今後AIと連動した制御が一般的になっていく可能性もあるかもしれません。

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【自動車以外も!】モデルベース開発の導入事例

ここではモデルベース開発の導入事例をご紹介します。

住友重機械工業|産業機械・建設機械

住友重機械工業は、産業機械や建設機械を手がけ、油圧ショベル用制御ソフトウェアの開発においてMBDを積極的に活用しています。油圧ショベルの動作はエンジンの一定の制御が必要であり、環境規制への対応や安全性が求められます。当社が直面していた課題は、外部から調達した多種多様なエンジンに対応した制御の実現でした。

MBDの導入は、限られた時間と人的リソースの中で制御ソフトウェアの開発を効率的に進めるための戦略でした。実機を使用した検証ではエンジニアの認識のずれやテスト用ハードウェアの制約から効率的な検証が難しく、MBDを用いることでコンピュータ上での検証が可能になりました。

これにより、大幅な工数削減が達成され、実機検証の回数の削減が環境にもプラスの効果をもたらしました。住友重機械工業はMBDを通じて、制御ソフトウェアの効率的かつ環境に配慮した開発を実現しました。

引用:MathWorks「住友重機械工業、油圧ショベル用の組み込み型モデル予測制御ソフトウェアの開発を加速」https://jp.mathworks.com/company/user_stories/sumitomo-heavy-industries-speeds-development-of-embedded-model-predictive-control-software-for-hydraulic-excavators.html

アサゴエ工業|油圧バルブ・自動車の鋳造製品

画像引用:アサゴエ工業株式会社

アサゴエ工業は、油圧バルブ部品や自動車部品の製造メーカーで、MBDを駆使して鋳造品の製造工程において製造コストの削減や効果的なお客様説明に注力しています。初期の段階では経験則に頼っていたシミュレーションをMBDに切り替え、主に不良率の低減を目指していました。MBDを用いた新製品の事前測定により、開発全体のコストを減らし、スピードアップを達成することが可能となりました。

アサゴエ工業では、MBDによってシミュレーションの結果を動画で可視化し、不良品対策などの具体的な取り組みを視覚的に示すことで、顧客向けに説明しやすくなりました。この取り組みは、社内での議論においても具体的なイメージを提供し、コミュニケーションコストの削減に繋がりました。MBDの有効な活用を継続するために、アサゴエ工業では効果の検証と職場内研修による人材育成を継続的に行っています。

引用:経済産業省「MBD/CAE 等の導入・活用の手引き・事例集」https://www.chugoku.meti.go.jp/r5fy/reseach/automobile/pdf/230531_2.pdf

ソニー・オリンパスメディカルソリューションズ株式会社|医療機器向け画像処理開発

引用:医療機器開発におけるMBD導入プロセス

ソニー・オリンパスメディカルソリューションズ株式会社では、医療機器向け画像処理開発においてモデルベース開発を導入しました。

モデルベース開発の手法やツールを十分に活用するにはそれらに習熟することが重要であり、そのメリットを最大にする環境構築には社内だけでなく社外リソースの活用が効果的であったと報告しています。
また、モデルベース開発の導入は、小規模の適用から始めて、修正しながら拡大適用することが大きなポイントであるとしています。

村田製作所|エネルギー管理システム制御ソフト

村田製作所では以下のようにモデルベース開発の導入を進めました。

・PIコントローラのモデル化
・コントローラやプラントで閉ループシミュレーションを実行
・異常状況発生時の設計評価として、閉ループシミュレーションを追加
・Cコードの生成をコントローラモデルより行う

これらの結果、エネルギー管理システムの制御ソフトの開発を従来の半分ほどの期間で進めることができました。

引用:MATLAB & Simulink「村田製作所がモデルベース デザインによりエネルギー管理システム制御ソフトの開発期間を 50%以上 短縮」

まとめ

本記事では、モデルベース開発についてそのメリットを中心に解説しました。
モデルベース開発は今後、自動車業界だけでなく多くの分野や産業に導入されるでしょう。自社でモデルベース開発の導入を検討しているものの、リソース不足やコスト面などの問題を抱えている場合は、外部の支援サービスを利用するという方法もあります。

モデルベース開発に豊富な経験と実績を持つテクノプロ・デザイン社は、モデルベース開発の導入支援だけでなく、開発やコンサルティング、将来の内製化も踏まえた幅広いサービスを提供しています。ぜひお気軽にご相談・お問い合わせください。

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