需要予測は製造業において利益を最大化するために重要ですが、精度を高めるには様々な要素を取り入れる必要があり計算が非常に複雑になります。そしてそれを解決するのがAIです。
本記事では、需要予測の種類やメリット、課題、実際の導入事例などについて解説しています。
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需要予測とは?概要とAIを用いた需要予測
需要予測とは、ある製品やサービスの短期的または長期的な販売量や使用量を予測することです。需要予測をもとに、生産量を決定し原材料や人員の確保などを行います。
需要予測が適切に行われなければ過剰在庫を抱えてしまったり、逆に機会損失につながってしまうため、企業が利益を最大化させるためには精度の高い需要予測が不可欠です。しかし、需要予測には様々な要因を考慮する必要があり簡単ではありません。
そこで、近年ではAIを用いた需要予測が注目されています。
AIを用いた需要予測では機械学習をベースとしてこれまでの売上についての情報や、以下のような売上に影響するさまざまなデータを元に予測します。
一般的に、データ数が多いほど、予測精度も高くなります。
需要予測に影響する項目例 | 具体例 |
季節や天気 | ・季節や天気、気温により売れる食べ物が変動する ・季節イベントに連動して関連商品の売れ行きが変わる |
曜日や時間 | ・飲食店では日中と夜間帯でオーダーされる商品が変わる ・平日と休日の違いによる変化 |
競合サービスとの兼ね合い | 競合サービスのセール時期や、新商品の発売などによる変化 |
社会や経済との関係 | ・トレンドによる変化 ・経済状況により、売れる価格帯が変化 |
需要予測については以下の動画も参考にしてください。
需要予測の種類
需要予測の方法にはいくつかの種類があります。この章では代表的な方法について解説していきます。
データに基づいた統計的予測
過去の売り上げの実績などの統計データを用いた需要予測の方法です。
データに基づいた統計的予測は、現在多く活用されている方法で、担当者によって精度が変わらないといった点がメリットといえます。一方で、データの統計処理が大きな負担になったりデータの量が少ないと精度が低くなるというデメリットもあります。
また、時間経過や社会情勢の大きな変化によって過去のデータが通用しなくなる場合もあるので予測精度の定期的なチェックが必要です。
勘や経験を用いた予測
担当者の長年培った経験に基づく勘に頼った需要予測の方法です。
経験豊富な担当者が行えば、信頼できる需要予測が得られるケースも少なくありません。また、他の方法に比べてデータの集計などのコストが低いというメリットがあります。
しかし、担当者が不在の時や退職してしまうと同レベルの予測ができなくなってしまうリスクが高いため、近年では勘や経験を用いた予測は避けられる傾向にあります。
市場調査を用いた予測
市場調査の結果から需要予測を行う方法です。具体的には、ターゲットユーザーにアンケートを行ったり類似商品の売り上げ調査、テストマーケティングなどが含まれます。
実際の声を拾えるため、現在の需要を反映した需要予測を行うことが可能です。一方で、現在の需要を反映しているので市場調査から時間がたってしまうとデータの信頼性が下がってしまうこと、データ量が少ないと精度よく需要予測が行えないため、データ収集には相応のコストがかかってしまうことなどを考慮する必要があります。
機械学習を用いた予測
機械学習とは、与えた大量のデータをコンピュータが自動で学習し、データのルールやパターンから新たなデータについての判断を習得するデータ解析方法です。
AI(人工知能)のひとつの技術であり、需要予測に機械学習を用いることで、人間では処理できないような膨大なデータ(ビッグデータ)を活用して、素早く高精度な需要予測をすることができます。
AIに機械学習を行わせるには、教師データという学習用のデータを用意する必要があります。教師データから「問い」と「正解」をセットで学び、そこから新たなデータに対する「正解」を予測します。
需要予測の手法
需要予測には様々な統計学的手法があります。それぞれの手法ごとに特徴があるので1つずつ見ていきましょう。
移動平均法
移動平均法は特定の期間の平均値を少しずつ期間を移動しながらとっていく手法で、短期的な変動の影響を除去して中期的な傾向を見ることができます。
例えば3か月の移動平均をとる場合、7月の平均値は5月〜7月のデータを足して3で割った値になります。また、8月の平均値は6月〜8月のデータの平均値を用いて算出します。
長期的な傾向を見ることが難しい点や、3か月平均と5か月平均など期間を変えることで予測の結果が変わってしまう点に注意が必要です。
指数平滑法
指数平滑法は、移動平均法など算出の際、データごとに重み(影響度)を指数関数的に変化させて算出する方法です。一般的には移動平均を算出する際に最近のデータに重みを置き過去のデータになるほど重みを小さくします。指数関数なのでどこまで過去に遡っても重みがゼロになることはなく過去のデータのすべてを予測に反映します。
需要が一定の水準でランダムに変動するような需要予測に向いている手法です。
回帰分析
回帰分析は、「説明変数」と呼ばれる需要と関連する要因と需要の関係を数式で表し需要予測を行うものです。説明変数には気温や天候、販売価格など様々なものが当てはまります。
ベーシックな統計的手法であり表計算ソフトで簡単に求めることもできますが、データに偏りがあったりデータ数が少ない場合には正確な需要予測が行えないため、注意が必要です。
時系列分析
時系列分析とは、時間経過によって変化するデータの傾向やパターンを分析して需要予測を行う方法です。時系列分析では長期的な変動であるトレンド、一定期間で繰り返す季節変動、予測困難な突発的な変動である不規則変動などの要素を考慮し、需要予測を行います。
加重移動平均法
加重移動平均法は、直近のデータに重みを置く点は指数平滑法と同様ですが、加重移動平均法では等間隔で重みを減らしていき、ある時点で影響はゼロになります。
データの変動が大きい場合やトレンドがある場合に有効ですが、適切な重みの設定が必要で知識や経験が必要となります。
AIを用いた需要予測のメリット
AIによる需要予測には以下のようなメリットがあります。
- 業務を効率化できる
- 在庫と最適にできる
- 精度の高い需要予測が可能になる
- データに裏付けられた業務を行える
それぞれのメリットについて詳しく解説していきます。
業務を効率化できる
AIを用いた需要予測を取り入れることで、それまで従業員が手作業で行っていた需要予測を自動化できます。データ解析など需要予測における作業負荷も高いので、需要予測に割かれていたスタッフのリソースを割り振ることで生産性の向上も見込めるでしょう。
また、AIを用いて精度の高い需要予測を行うことでピーク時の人員配置などを適切に行うことができるのでシフトの無駄も減らすことができます。
在庫を最適にできる
最適な在庫管理は、企業が効率よく利益を上げていく上で重要な要素です。在庫が不足すれば機会損失や納期遅延につながり企業としての信頼を失ってしまうこともあります。逆に在庫を抱えすぎれば保管中の経年劣化や在庫スペースの圧迫による業務効率の低下などを引き起こします。
AIを活用して高精度な需要予測を行うことで、販売数や天候、季節など膨大なデータを分析して最適な在庫量を知ることができます。
精度の高い需要予測が可能になる
人間が需要予測を行う場合は、扱うことのできるデータ量に制限があります。また、ヒトが作業を行う以上ヒューマンエラーが付きものです。
一方で、AIによる需要予測では人間では到底扱いきることのできない膨大な量のデータを扱うことが可能です。AIが自動的に需要パターンを学習することで、今まではさほど重要視していない要素が実は需要を予想するうえで大きく影響していることを見つけることもできるかもしれません。
データに裏付けられた業務を行える
AIを用いた需要予測は数値データに基づいた客観的なものです。客観的なデータは社内だけでなく取引先や株主に対しても説得力のある根拠を示すことができます。
人間の行う需要予測では経験や勘を完全に排除することは難しく、在庫管理などでも「欠品するよりは」と過剰在庫を抱えてしまうこともあります。データに基づいた管理を行うことでこのような過剰在庫も最小限にすることができます。
以上のように、AIを用いた需要予測には多くのメリットがあります。
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AIを用いた需要予測の課題
メリットの大きいAIを用いた需要予測ですが、解決するべき課題もあります。1つずつ見ていきましょう。
多量のデータが必要
AIによる需要予測では、AIが予測を立てるためのデータ(教師データ)を大量に準備しなければなりません。また、質の低いデータを集めても精度の高い需要予測はできません。
さらに、AIはデータを学習していく中で精度が高くなっていくため、導入初期段階では精度が低くなる傾向にあります。
蓄積されたデータから大きく外れた事態には対応できない
AIは蓄積されたデータを基に機械的に需要予測を行います。そのため、突発的にある商品の売り上げが上がった場合、人間には一時的なものだとわかってもAIは長期的な需要予測にその商品の売り上げを組み込んでしまいます。
AIが出した結果を検討する必要がある
AIを用いた需要予測は高精度ですが、100%の的中率を保証するものではありません。また、基本的にはデータの学習によって精度が上がっていきますが、機械的に需要予測を出しているため本来の目的と異なる結果を出してしまうこともあります。
そのため、AIの出した結論を理解できる担当者がデータの偏りがないかや予測精度が保たれているかなどの定期的な保守・点検が必要で、専門知識を持ったスタッフが必要です。
AIを用いた需要予測の精度を高めるには
AIによる需要予測は導入すればそれで終わりというものではありません。この章ではAIを用いた需要予測の精度を高める方法について解説していきます。
目的をはっきりさせる
AIによる需要予測は適切なデータを集める必要があります。目的がはっきりしないままデータ分析を行おうとしても、そもそも適切なデータがどういったものかという判断もできません。
目的に合ったデータを集めることで需要予測の精度を高めることができます。
質の高いデータを多く確保する
AIの需要予測では取り入れるデータの質が重要となります。質の低いデータを大量に集めても精度の高い需要予測を得ることはできません。
古いデータや不正確なデータを用いた需要予測では、間違った結果を導きだしてしまいます。AIには信頼性が高く最新のデータを学習させるようにしましょう。
結果の検証と改善を続ける
AIによる需要予測と実際の需要に差が出た場合は、原因を検証し需要予測モデルに反映させることで予測精度を高くすることができます。この検証と改善を継続的に行っていくことがAIによる需要予測の精度を高くするために重要です。
また、AIが苦手とする異常気象の発生などの誤差や一時的なキャンペーンやメディア掲載による需要の増加のような異常値を考慮・補正することも精度を高めるために必要です。
AIを用いた需要予測の導入が効果的なケース
AIを用いた需要予測は様々な企業で採用されていますが、特に人手不足の企業や需要に多くの因子が絡む企業、参考にできるデータが少ない企業などでより大きな効果を得られます。詳しく見ていきましょう。
人手不足の企業
AIを用いて需要予測を行うことで、需要予測に割いていたリソースを他の業務に回すことができます。そのため、少ない人員で業務を行わなければならない人手不足の企業はAIによる需要予測の導入がより効果的です。
また、精度の高い需要予測を得られることで人員配置を最適化して同じ人数でも効率的に業務を行うことができます。
需要予測に多くの因子を考慮しなければならない分野
完成までに多種多様の材料を必要とする製品や天気や季節により需要が変化する商品では、すべての因子を計算に入れた需要予測は非常に複雑になり、人間の手で行うことは困難です。
AIは複雑な計算でも素早く正確に行うことができるので、人間の手では行えないような多くの因子が関わってくる需要予測を導き出すことができます。
先端分野など参考にできるデータが少ない分野
先端分野などの未開拓分野では、予想に使用できる過去データが少ないことが多く、通常の需要予測では予測を立てることができない場合があります。
AIを用いた需要予測でも、初期の予測精度は低くなることが予想されますが、リアルタイムで機械学習を繰り返すことで短期間で予想モデルを構築することができます。
AIを用いた需要予測の導入例
AIを用いた需要予測を導入している企業について見ていきましょう。
工場における需要予測
アジリティを持った供給体制にするためには、供給リードタイムの短縮と需要予測精度の向上が必要不可欠です。資生堂では、原材料サプライヤーと連携しながら供給リードタイムの短縮を図るとともに、AIなどの最新技術を駆使し、需要予測精度をさらに向上させています。
こうした投資を強化することで、安定供給の実現やアジリティを持った供給体制を構築し、在庫適正化と品切れによる機会損失解消を実現しています。
漢方製剤生産工場における中長期的な需要予測
株式会社ツムラでは、AIやロボットといった新技術を活用することで、栽培、生薬加工、生産などの効率化を推進し、漢方の需要増に答える生産性向上、コスト削減を実現しています。需要予測については中長期的に実施し、医療用漢方製剤の販売伸長に対し、製品の安定供給体制を維持・強化すべく生産システム改革に取り組んでいます。
スーパーマーケットでの発注作業の負荷削減
食料品を中心に取り扱うスーパーマーケットを展開しているライフコーポレーションは、発注作業を自動化するAI需要予測自動発注システムを導入しています。
このシステムでは、販売実績・気象情報・販売計画などのデータをもとに日々の商品発注数を自動で算出することで発注作業を削減します。このシステムによってコロナウイルス蔓延による激しい需要変動においても欠品や食品ロスを防ぐことができました。
AIを用いて食品業界の課題解決
外食チェーンを展開している長崎ちゃんぽんリンガーハットでは、販売実績などから需要予測を行うだけでなく、緊急事態宣言や災害などの非常時でも柔軟に対応できるシステムを導入しています。
AIを用いた精度の高い需要予測を行うことで飲食業界が抱える人手不足や食品ロスなどの課題を解決しようとしています。
農作物の収穫量の予測
高知県は農作物の最長3週間先の生産量を予測するシステムを開発しています。
ビニールハウス内の温度や湿度などの環境データや気温や降水量などの気象データ、花の数や実の数の育成データなどをAIに学習させることで品質向上や生産量の予測を可能にします。
出荷時期や出荷量を正確に予測できることで、農家が年間を通して安定した収入を得られることを目指しています。
飲食店の来客予測
伊勢神宮の付近にある飲食店「ゑびや」は来客人数だけでなく、客の性別や年代までもデータに入れて来客予測を立てることで、注文されるメニューの量を時間帯ごとに予測することに成功しています。
詳細な来客予測によって、スタッフの適切な配置や仕込み量の適切化で利益の最大化や食品ロスの削減を行っています。
人流データを用いたバスダイヤの最適化
兵庫県を拠点に乗合バス事業などを展開する神姫バス株式会社は人流データを用いることで人の移動とバスの運用本数のギャップを可視化して、人の移動という需要に合わせたダイヤ編成を成功させました。
ファッション業界におけるトレンド解析からの予測
株式会社三陽商会では、成長戦略の柱の一つとして、デジタルを活用するデジタルトランスフォーメーションの推進を掲げています。その中でも、AI活用による企画精度の向上は重要な施策と考え、画像AIエンジンを用いた世界初のファッショントレンド解析サービスを展開しています。
この取り組みにより、期初の需要予測の精度の向上、機会ロス・値引・余剰在庫の抑制を図り、売上・粗利の最大化と在庫の適正化を目指します。
引用:https://www.sanyo-shokai.co.jp/news/2019/02/14-237.html
牧場における牛の生育状況の予測
本川牧場は、牛の個体情報や牛に対する作業の情報など200~300項目にわたるデータを収集することで、牛の成育状況の「見える化」と、これらのデータを分析することで健康に問題のある牛の検出や今後の牛の状態の予測、子牛の出生予定頭数の予測などを行い、牛乳生産量の予測と最適化、肉牛の出荷時期の予測と出荷最適化に結びつけています。
データの活用により牛乳生産量が1日あたり2トン増加したほか、1日あたりの売上が約16万円増加しました。また、計画生産量と出荷量とのズレを無くすことで廃棄ロスやペナルティの支払いを削減することができたほか、頭数増加に伴う牛舎の増加なども予測でき、中期的な投資計画の基礎となるデータも入手できるようになりました。
引用:https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h26/html/nc131120.html
寿司皿の情報管理による予測
(株)あきんどスシローは、会計の省力化などのため、すべての寿司皿の情報を個別管理し、需要予測を行っています。
寿司ネタごとの売上や廃棄の動向や入店から会計までの利用動向も把握することができるようになり、適切なタイミングで適切な寿司ネタを提供できるようになりました。
この結果、廃棄ロスを75%削減し、コストを食材に振り向けることによって、顧客満足度の向上にもつなげています。
引用:https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h26/html/nc131120.html
AIの需要予測の導入例については、以下の動画も参考にしてください。
まとめ
AIを用いた需要予測のメリットや精度を高める方法、企業における導入例について解説しました。AIを用いた需要予測を用いることで、業務の効率化や在庫の適切化など企業の利益を最大化する手助けとなります。
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